膝枕、というのはある意味男の夢の一つではなかろうか。
そう思うのは決して自分だけではないはずだ。
いや、冗談ではなく真面目な話。
可愛い恋人の膝枕、オプションで耳かき・・・とか!!!
思わず両拳を握って力説するほど健全な男ならばそういう夢を抱いても、別に不思議なことではない。
が、しかし。
照れ屋な恋人は絶対そんな事してくれないからなー、と思った矢先。
「黒崎さんのバカああああぁっ・・・・・・!!」
フラフラッ、・・・と力なく床に倒れ込んで袖を振ってヨヨヨ・・・・と泣き崩れるマネをしても労りの言葉はない。
それどころか一護の容赦ない言葉が追い討ちをかけた。
「馬鹿か」
ざっくりと刺さった温かみのかけらも無い言葉が胸に突き刺さる。
これが可愛く頬を染めながら『馬鹿・・・・っ』とか言ったならどんなに・・・と思ったが口に出したら蹴りが飛んできそうなので止めた。
「アタシには膝枕なんてしてくれないくせに・・・っ、なんで夜一サンにはするんですかっ!?」
ビシッ、と指を突きつけたその先には一護の膝で丸くなっている友の姿。
一護の膝の上でとても気持ちが良さそうである。
が、浦原にとってはソレが果てしなく気に入らない。
「は?膝枕・・・・・・?」
「気にするな、一護。あやつの言うことが支離滅裂で意味不明、かつ理解不能なことはいつものことじゃ」
夜一は一護の膝の上で小さく欠伸をしながら浦原に見せ付けるようにフフン、と笑った。
あからさまな挑発だが、一護はそれに『ふーん・・・』と答えただけで、それにさらに落胆した浦原は床に突っ伏した。
「酷い・・・・恋人のアタシにはしてくれないのに・・・無いのに・・・・」
指でのの字をぐるぐると掻きながらうじうじと言い募る浦原の周りには低気圧が発生、穏やかな昼が一気にじめじめとした湿気に包まれる。
膝枕・・・前に頼んだら本気で鳩尾に一発入れられて、その後口も聞いてくれなかったくせに何故こんな自分の前でこれ見よがしにしてみせるのだ。
ひどい・・・ひどすぎる・・・!
「だいたい膝枕って・・・コレ違うだろ。夜一さんは暖とってるだけだっつーの」
「子供は体温が高いからな」
「縁側あったかいけど、ちょっと日が陰ってきたし・・・ひっついてると丁度いいんだよ」
「だったら中はいったらいいじゃないでスか・・・・・」
だいたい自分が子供っていうとすっごく怒るのに、夜一さんのときは何も言わないし。
そもそもあんなに引っ付いて・・・。
お互い他人にひっつくのそんなに得意じゃないくせにー。
うじうじうじうじ・・・ブツクサと不満をこぼし続ける浦原に一護が座布団を投げつける。
ぐえっ、とうめき声を上げた浦原に夜一は『いい気味じゃ』と楽しげに笑った。
「そんなに冷たいと本気で泣いちゃいますよ!」
「ハイハイ、勝手にやってろ」
男の夢、膝枕。
今のところは目下その愛らしい姿を武器とした親友のものらしい。
見た目だけの癖に・・・元の姿だったら一護だって絶対にしないだろうに。
ずるい、ずるい・・・。
もういっそ猫になりたいと、そう思ってしまう気持ちも少しは分かって欲しいものだ。
END