「黒崎さん、今日誕生日だったんですよ」


知らなかったんですか・・・?と首を傾けるウルル。


・・・知らなかった。
全然、全く知らなかった。



ていうか、何。
なんなんだろうあの子は。
アタシを一体なんだと思ってるんだろうか。

夕方には帰ってくるって、聞いただろうに。
それなのになんでこんな15日ギリギリにくるのか。
前もって言ってくれていればどんな仕事が入ろうと蹴って祝ってあげていたのに。
祝ってあげたかったのに。
・・・・・・もう16日じゃないか。
まだ呆然としながら、時計を見ればもう24時を回っている。

自分を訪ねてわざわざきてくれたと聞いて高揚していた気分も、一気に下がった。
わかってたけど、わかりきってたけど。
なんて欲のない子だろう。
何が欲しいとか、何をして欲しいとか、言ってくれたらどんなことだって叶えるのに。



『・・・い、一回だけ名前で呼べ!』



何それ、何なのそれ。
ていうか呼んでもよかったの?
自分的にはずっと名前で呼びたかったのを嫌がるだろうと思って名字で我慢してたのに。
何、一回だけって何。
何回だって、何百回だって、何万回だって言ってあげるのに。


『帰るっ!』


違うだろう、その反応は違うだろう。
だって自分の誕生日なんだから少しぐらい我侭言ったって許されるんだから。
そこは帰るべきじゃないだろう。
いや、なんで大人しく帰しちゃったんだろう自分。



ああもう。
何なのさ、あの子は。


・・・かわいすぎる。




「一護さん」



呟くように呼んだ名前は、ひどく甘かった。
悔しいから、仕返ししてやる。













彼がウチを訪れたのは、それから三日後のことだった。
自分はというと、いつ彼が来てもいいように仕事はまるごと放棄。
やろうと思えばいつだってできることばかりだし、テッサイがなにか言いたそうな目でこちらを見ていたが無視。

だって、アタシの最優先事項は彼なんだから。


「いらっしゃい」


にっこりと笑って、いつものようにそう言うと彼は視線を泳がせた。


「ぅ、・・・おじゃまします・・・・」


だんだんと消えていく語尾と、俯いて顔を赤く染める仕草がたまらなく可愛い。
今すぐこの場で押し倒してしまいたいという気持ちを必死に押さえ、彼を部屋に招いた。
彼のことだから、きっとあの夜の行動を思い出して思考がぐちゃぐちゃになるくらい恥ずかしがっているんだろう。
あー、あー、可愛いなー、もう。
別にさァ、一応恋人同士っていう仲なんだからそんなに恥ずかしがらなくたってイイじゃない?
いつまでたっても初々しくて可愛いけど。
うん、可愛いんだけど。


「あの日、誕生日だったんですってね?」


彼にとってあまり掘り返されたくないだろう事を、あえて言う。
案の定彼は小さくうめいて縮こまった。


「ゃ・・・その・・・・ゴメン、なさい」


「・・・・・・何がです?」


実はかなり怒ってるんですよ、とそういう意味も含めて訪ね返した。
彼の方がビクリと揺らいで、そうしてゆっくり顔を上げた。
ちゃんと視線を合わせて、彼はもう一度謝った。


「あんな夜中に訪ねてきてゴメン、ほんとに」





















・・・・・・・・・・やばい、この子天然だ。
いや、天然記念物だ。

アタシが迷惑に感じたとでも思ったんだろうか。
そんなはずないのに。
誕生日を教えてもらえなかったのを、ちょっと悔しく思って仕返しに意地悪いってやろうかと思ったのに。














「・・・・・・君にはかないませんよ、一護さん」




一回だけじゃなくて、ずっと名前で呼んでやろうという企み以前にコッチがノックアウトされちゃった。
ああ、もう。
でも。

ぽかん、と一瞬時間を止めてそのすぐ後に赤面して泣きそうな顔をしている彼はやっぱり可愛いんだ。
自分は知らないのに、ウルルは誕生日を知っていたこととか、それを言ってくれなかったこととか。
腹の立つことは全部、吹き飛んだ。

しつこいようだけど、彼は可愛い。
だからきっと、一生彼にはかなわない。