真夏に感じる水の温度、冬に感じるお湯の温度。
心地よいのだけどとてもあやふやな温度が手から伝わってくる。
随分と長い間手を繋いでいたから、まるでそこから溶けて一つになってしまったかのような錯覚すら覚えてそんな自分に嫌気が差した。
真昼の太陽に晒された海水の温度、冷たくて温かい。
この上なく安心できるその温度に浸かっていると安心できた。
波にゆらゆらと揺れて、心地よさに身を任せる。
肌から直接伝わってくるものが、泣き出してしまいたくなるくらい優しくて困る。
どう対応したらいいのか分からなくてせめて知らない振りを、気づいていない振りをするので精一杯になるくらいのことしか出来なかった。
けど自分のすぐ隣で眠る温かな体が、ゆっくりと上下するその体がそうさせてくれなかった。
生きた人、この熱を持ったこの人間は安心しきったように眠りについている。
自分の、隣で。
「温かい・・・・・」
呟いて、つながれたままの手をゆっくりと握った。
眠っている竜崎を起こさないようにそっと寝返りを打ったが、本人は気づきもせずに暢気に寝息を立てている。
動いていない竜崎の顔はこうしてみると端正な顔立ちで、長い睫毛が白い肌に影を落としていた。
空いた手で頬を撫ぜようとした手は宙で止まった。
ふと、我に返って思わず赤面した。
自分は何をしようとしたんだろう、馬鹿みたいだと思って布団をかぶった。
今自分から何かの行動を起こすのはなんだが悔しかった。
というか恥ずかしかった。
この温くて心地よい温度に浸っていられたらそれで十分だろう。
そう思っていた。
けれど大きなリスクを背負うほど欲しい物ではないはずなのに手を伸ばさずに入られなかった。
この幼子のような温度に、幼い温度にずっとずっと触れて居たいと思った。
できるだけ長く、ずっと。
死ぬまで、ずっと。