影が差した。 相手の瞳を染めていくのはできれば見たくはない色だった。 ああ、この目を俺は知っている。 母上がよくそうやって俺を見ていた。 いや、母上とは少し違う、更に嫌だ。 向けられているのは、哀れみと悲しみとそしてどうしようもない、愚かさ。
「見るなよ」
首を振る。
「見るな」
目を瞑る。
「そんな目で見るな」
閉じた世界でも鮮明に残る、紅い眼差しに追い詰められる。 振り切ろうと無我夢中で掴みかかった、力を込める指を見ることでそれから逃げようとただ必死。 掠れた声で搾り出し見上げ、縋るよう。
「お前は嘘が上手いくせにこういう時だけ正直じゃなくてもいいだろ…っ」
だからいやなんだ。 この男に見透かされることなんてなければ良かったのに。 別にこんなもの見たかった訳じゃない、笑って欲しいとか我侭言わない。
憂える要因となったのが自分だという事実、それを突きつけられる現実、そしてなにより、 そしてなによりも浮かびくる感情が全てを苛んでゆくのだ。
時が来れば刻みつくだろう、それはそれは深い傷。
なんて嬉しいことなのか。
思う自分に嫌悪と侮蔑、相反して濁る思考をぶつけるようにジェイドを責める。 やはりそれさえも見透かしたように伸ばされた手に崩れ落ちた。
「好きだよ、ジェイド」
「知っています」
近い体温は、それ以上の距離を縮めず、停止して。 聞こえた言葉は酷く優しい、
「せいぜい私を再起不能にしてくださいね」
凶器。 |
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