「逃げてください」 「どうして?」 「危険ですから」 「何がだ?」
正気かと疑いたくなるくらい子供の答えは純朴だった。 正気といえば正気だ、ただし物を知らなさすぎるという子供の咎を この子はまだ背負ったままというだけで。 そう、狂っているのは自分のほうなのだ。 だからそんな眼で見上げるのは止めてほしい、あなたにはこんな馬鹿な ことやめろと喚いて欲しいのに。
現実圧し掛かっているのはベッドにであって、ルーク本人に体重は かけていない。けれど仰向けになった彼の身体をそのまま覆うように しているこれは他人から見れば明らかに行為に及ぼうとする体勢以外の何にも見えないだろう。 それなのに今だ困惑だけをその眼に映して見上げてくる幼い姿が酷く 憎たらしかった。
『違う、愛しいからこそ、』 こんなことをしているのであって。
『違う、本当に愛したいのなら、』 こんなことをするべきでは、きっとないのだと、分かっていながらも 何故、どうしてと。
「ジェイド、一体どうしたんだ?」
不毛な考えから自分を呼び戻したのはやはり彼の声で、皮肉すぎてもう 笑えてしまう。
「なんでそんな怖い顔してるんだよ」
答えてなんかあげません。 その代わりとして晒された喉に軽く歯を立てた。
「・・・っつぁ・・・!?」
それに驚き、慄き、泣きそうになった子供を見下ろして、
私はまた眉を顰めるのだ。 |
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