美しき君の激高



美しいと思ったのは、正に焔の色そのものだった。

毛先にかけての黄を帯びるグラデーションと、歩くたびにしなやかに揺れるその長い波長がそうさせるのだろうか。
戦いの最中でもそうだ。白い服の裾と共になびき翻る長い赤。
それを何度となく私は美しいと思った。

そう、その色だけが美しいと。




「・・・・・・うぜぇ」

吐き捨てられた言葉は全くもって低脳な言葉でしかなくて、それをジェイドが気に留めるはずもなかった。
ましてやわざわざ振り返ってその子供の駄々を確認してやることなんて以ての外で、聞いていない振りのまま視線を一ミリたりとも手元の書物から動かすことも無い。

「なんであんたと同じ部屋なんだよ」

振り返る目的が自分にないのだからジェイドは振り返らない。
そう、自分が彼を見ていたいと思うのはその長い髪を存分に眺められる後ろからだけであって、声を発し駄々をこねる子供と向き合いたいなどとは微塵も思っていないからだ。

「おい、聞けよ」

だんだんと彼の声に苛立ちが現れ始めた。
駄々どころか癇癪を起こしている子供なんて例外だ。
切り捨てることは簡単だが、生憎都合上それが出来ない身の上が非常に疎ましい。
不快な音が近づいてくるのを背で感じながらも、それでも男は振り向かない。

「おい!!」

視界が揺れる。強く肩を引かれたのだ。
そして無理矢理振り返らされたそこにあったのは、どうしてか身勝手な怒りに歪んだそれではなく。
引き結んだ唇、そして触れたら火傷を負いそうな頬、それら、激昂する赤。
そしてその表情の中で不似合いにも涙を湛えた翠の両の眼が、自分に切実なまでの何かを向けていて。

ジェイドはそんな彼に笑顔を見せた。
その裏で彼は子供を嘲っていた、見縊っていた。
けれど子供にはこれ以上無いくらい残酷に優しく見えるように微笑んだのだ。

「なんですか、ルーク」


さぁ、もっとあなたの色を見せてごらんなさい。