溢れだした喜びの歌





歓喜の歌が、流れ出す。
絢爛の春に、花咲く地へと、たゆたう水のごとく、静かに。
夢のようだった、あるいは幻か。
本当はこの日をずっと待ちわびていて、反面、ずっとこなければいいと思っていた。

案外、あっけないものだった。
死にそうに嬉しかったというのは大げさすぎて、かといってこの幸せをどうあらわしたものか。
水分を含んだ声と、飲み込みすぎて詰まった息。
自分以外の誰もが、目の前の光景にただただ歓喜を覚えている。
まだ耳に残っている、ティアの譜歌が夜風に乗って余韻を引いているのがわかった。
それが空気を震わせて、今にも零れ落ちそうな何かをより深くへと誘っている。
皆が待っているのは言葉だった。
私もそれを静かに待っていた。
この均衡を自分たちの言葉で壊すには、あまりにも怖かったのだろう。
私のように、奇妙な確信と不安を抱いているのとはちがう。
希望しかない、その感情を揺り動かしてくれるのはほかでもない、ほかのだれでもない、ただ一人の手によってだけだ。


「ただいま」


声で、判別がつかない。
けれどその言葉に誰もが確信する。
帰ってきたのが、誰なのか。
自嘲を含んだ笑みを消して、私は瞠目した。

帰ってきたのが、アッシュだったのか、ルークだったのか。
研究者として持っていたはずの答えは、感情に反するもので、心のどこかで否定していたものでもあった。
前髪に隠れていた翡翠色の瞳が、こちらへ向いた。
「約束、遅れたけどちゃんと守ったから」
もう一度彼はただいまと言って、笑う。
その目があまりにも見慣れたものだったから、私は言いたいこともすべて忘れて『おかえりなさい』とつぶやいた。

月夜の下に流れる、歓喜の、うた。