「こんなことを、考えたことはありませんか?」


金属のような、冷たい声。
振動が空気を伝って響いた。

カツン、カツン。


床を鳴らす靴音はどんどん近くなっていく。
針金細工のように細い体躯は、闇に溶けかかってはっきりと見ることは出来ない。逆光に伸びる影と、その本体もおどろおどろしくまるで魔物のようだ。


そう、でなければ。


「人間が牛や鳥を食べる


   その人間たちの血をあなたたちが吸う


          ならばあなたたちの―――」




はためいた黒衣に、首から下がる十字架が音を立てた。
窓の外が、酷くうるさい。
心臓の音も、耳障りなほどに。

雷光が閃き、その瞬間に見えたのは血のような赤だった。
ガラスの奥に秘められた血色の眼球は笑っている。



「あなたたちの血を 糧に生きるなにかがいるのでは、と。」



犬歯をむき出しにして、それは不似合いなほどに優しげな笑顔を浮かべて言った。



「死になさい、苦しんで」


死刑宣告が、下された。
派遣執行官、死霊使い(ネクロマンサー)――――。
其の名の下に、断罪の剣は落ちる。
血をすすり、滴る赤は指を伝って床を染めた。

吸血鬼。
人がそう呼び、恐れるもの。