私の腕を引いて、外に連れて行ってとはしゃいではよく周りにしかられていた。
もうあれから何度星がめぐったことだろう。
けれど鮮明に思い出せる。
あの、幸せだった日々。
元気で、明るくて、燃えるような赤毛を揺らして貴方はこの石畳の道を駆け回っていた。


『ジェイド!遊ぼう!』


太陽のように明るい、笑顔。





取り戻すためなら、何だってする。
笑っていて欲しい、ずっと。
陰など背負わずに幸せでいてほしかった。



『ねぇ、平気だよ。ジェイド・・・そんな顔しないで』



違う、違う。
泣いて欲しくなんかない!
涙なんて、いらない!!


『ごめん・・・・、泣くことしか出来ないから』


もう、やめてくれ。

私に涙あったなら、我ら珠魅が涙を忘れなければ。
あなた一人を、傷つけることもなかった。
命を削り、ただそれを見ているだけの自分を呪うこともなかった。




「ルーク・・・・・・」




煌きの都市―――荒廃し、血にまみれ、命を削り、同胞を見殺しにした愚かな種族の都市よ。
今、全てが終わる。
不死皇帝の侵略より続いた争いは、今終わるのだ。
摂理に反した過ちの連鎖は今断ち切られる。
その、命全てをもってして。
争いの火種を、核を奪いつくすことで。

――――――涙を忘れた愚かなる種族に制裁を!!!












フローライト

















「なぜだっ・・・!なぜ、俺が帰ってくるのを待てなかった!?」


血を吐くような叫び、握った剣を振り払い黒真珠の騎士は盟友に問うた。
幼い頃からの友、同じ時間を共有し、ともに戦った。
二人で、守ろうと誓った。

あの、儚い玉石の姫を。


「聖剣があればっ、ルークは助かる!なぜ俺が聖剣を持ち帰るまで待てなかったんだ!」

「なぜ、ですって・・・?」


冷たい、石の表情で嗤う。
目に浮かぶのは純粋な怒り。

「ふざけるな!!!聖剣などただの御伽噺でしかない、貴方がそうやって時間を無駄にしている間にルークの寿命はどんどん磨り減っていく・・・それをただ見ていろというのですか!!」


激情を隠しもせず、自分の胸の核に触れジェイドは続けた。
心にあるのは、常にただひとつのことだ。
ただそれだけのために、自分は戦う。


「たった千人だ・・・たった千人の珠魅の命でルークは助かる」


哀れみを、慈しみを、心を忘れた愚かな種族よ。
ただ一人で仲間を癒し、傷ついてきた玉石の姫の苦しみを今知るがいい。
核石が真っ白になり、涙が枯れるまで、泣いて、泣いて、命を削ったルークの代わりに今涙となれ。
自分では泣いて癒すことも叶わない、けれどそんな珠魅にもただ1つだけ涙石を生み出す方法がある。


「ルークのために、死んでください・・・ピオニー」



胸の核石が、アレクサンドルが煌いた。
鮮やかな緑色に、同胞の血液が散っている。

998の命。
残りはあと二つ。


――――――かつての友を殺し、残るはこの胸の核。


ルーク。
どうか、あなたには笑っていてほしかった。