雪を伴う嵐は恐ろしくも美しい。
轟々と音を立て、窓をガタガタと激しく揺らしながらやがて過ぎ行くそれを見るのが好きだった。
すぐ隣でぎゃあぎゃあと喚きたてる声の方がよっぽどうるさいと、笑ったあの日を思い出す。
淡い雪色の、なんと懐かしいことか。
欲しい、そう小さく呟いた。
もう届かない過去の残像へ。
どうしようもない思いを消すために。
腹の中で渦巻く感情を押し殺すことには慣れていた。
嵐の夜のように、ただ轟々と激しくて暗澹とする空のような黒いものが押し寄せてくる。
それが過ぎるのを待つ間、王座に座り頬杖をついてがむしゃらに思考する。
言葉という言葉を尽くし、欲という欲を反芻し、それにもっとも相応しい形容を作り上げた。
けれどどれもしっくりと来ない、作っては壊して、何度も何度も言葉を積み上げる。
伏せた眼をゆっくりと開いて、息を吐く。
半ば夢心地の中で、思い出すのは幼い頃に住んでいたあの雪の国だった。
積もった雪を踏みしめる感触も、美しいが身を凍らせる冷たさも、煩わしいとしか思えないものばかりが記憶に残っている。
それでも長い時を過ごしたあの場所こそが自分の故郷だと思える。
昔を懐かしみながら、あのころは無条件で幸せだったのだと今更ながらに思った。
王の子としてこの世に生を受けて、不自由と思ったことはもちろんあった。
自分の存在価値は全て未来の王として、それ以外の何者でもないのだと気づいた時は父を呪った。
王座は美しいだけのものではなく、幼いうちから命を狙われもしたし、王となった今でも変わらない。
けれど体に脈々と受け継がれている血が、王座を拒むことを許さなかった。
自分は、国を欲した。
王としてあることを、望んでしまった。
ああ、『王』というものはどうしてなかなか欲深い。
国も、民も、殺さぬように全てを手に入れたい。
それを守り、慈しみ、思うことを至福だと感じる。
どうしようもなく、途方も無い欲だった。
王であれ、民を率いるものであれ、民を守るものであれ、常に多くを望むものであれ、臆するな。
血がざわめく。
ひどく、落ち着かない。
ざぁざぁと、冷涼な水音が空気を支配する。
雪の鳴る音にも似て、なぜだか胸が痛くなる。
手に入れろ、望むもの全てを。
「もう、何もかもが遅すぎた」
ひとりごちても、言葉を返すものはいない。
考えて、考えて、あのときからずっと思っていたこの問答を終わりにしよう。
ああ、そうか。
なんとも単純明快なことだ。
「好きだったんだ、サフィール」
他のものは全て手に入れたのに、ただ1つだけ手に入れそこなった。
望め、望め、望め。
手に入れろ、全て。
自分は貪欲になりきれなかった。
なのに、血がそれを求める。
決して届かない空へ手を伸ばす。
明日は、雪が降ればいい。