一年中溶けない雪の、一年中春の来ない街で、あの日空を舞う蝶を見た。
雪色だった。
けれど本当の雪とは違う『かたち』
ひら、ひらり。
雪に混じって、蝶は飛んでいた。
その様が、あまりにも見慣れない・・・いいや、綺麗だったものだから私は雪に足をうずめながらその場に立ち竦んでしまった。
周りの音なんて何も聞こえなくなって、自分の頭の周りをくるりと大きく回る蝶に視線を奪われて、ああ。
あのときの気持ちをどうやって言葉にしたらいいだろう。
もう夜の闇が雪色と溶け合って、そんな中で浮かぶ月と蝶だけが特別に見えた。
粉雪を綺麗だなんて、思っても煩わしさが先にたって目にも留めなかった。
それが、なんてことだろう。
ああ、綺麗、綺麗、綺麗。
私は自分が転んで泣きそうになっていたことも忘れて、ただ蝶を追っていた。
膝小僧にできた傷は治った先からまた増えていくので、絆創膏が貼られたまま。
上から出来た新しい傷に、体温で溶けた雪がしみた。
ざく、ざく、ざく。
だんだんと近づいてくる足音も、分かってはいたけれどそんなことに注意を払うのは嫌だった。
手を伸ばしても届かない距離にいるあの蝶に、触れてみたかった。
無駄だと分かっていても、手を伸ばさずにはいられなかった。
「、―――ぃー、・・ル」
耳元を、音が掠めた。
瞬間、蝶が揺らいだ気がした。
消えてしまう、無意識にそう感じ取った。
私は慌ててそちらへ振り返って、これ以上音を立てないようにと・・・言おうとした。
月は優しい金色。
光に照らされた雪はその金色でも、灰色でも、ましてや真白でもなく、青い。
影をたたえた雪と、蝶が、薄く煌めいた。
その満ち欠けをたどるように、見つめてもたった一夜で月は形を変えない。
太陽のように強い光ではなく、静謐をたたえた月が好きだった。
ぎらぎら、より、きらきら、が、すきだった。
「むかえに来てやったぞ、ありがたく思え」
たぶん、きっとそんなような言葉だった。
聞こえない、わけではなかったのだけれど。
私は今、あのときの言葉を明確に思い出せない。
背に月を従えて、しゃがみこんで何も言わない私に手を差し伸べる姿も、朧。
思えば、蝶なんて図鑑でしか見たことが無かったし、気づいたら雪のように呆気なく溶けて消えたアレが蝶であるはずが無いのだけれど。
ひらひら、ひらひら。
あちらへこちらへ。
行ってしまうかと思えば留まり、留まっていたかと思えばいつのまにか居なくなっている。
思わせぶりに、指先まで寄ってきたくせに、飛んでいってしまう。
蝶、きっとそれは自分にとって自由の象徴のようなものだったのだ。
焦がれて、そうしてみた幻は夢のように美しかった。
月も、雪色の蝶も、溶けて涙になった。
迎えに来てくれたのが嬉しくて
迎えに来てくれなかったのが悲しくて