口を開けばジェイド、ジェイド、ジェイド、ジェイド。
ああ、もういい加減聞き飽きたな。
だからペロっと言っちゃったわけだ。
「ジェイドはお前のこと大嫌いだってさ」
ああ、馬鹿なサフィール。
本人の口からは何度も辛辣な言葉を浴びせられているだろうに。
雪兎みたいにぷるぷる震えちゃってまあ、かわいそうなヤツめ。
けど他人の口から言われても、本人の口から言われても、きっとコイツは懲りないだろうけど。
懲りてくれたら、俺もイジメんのやめるのにさ。
あっという間に眦に涙は溜まって、臨界点突破。
顔を真っ赤にして、どもった鼻声で、俺よりも低い視線から睨み付けるように一言。
「っ、大ッきらい・・・!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で、あいつは俺にそう言い放って雪道をかけていった。
途中でボスン、!と大きく音を立てて転んでもとまらなかったし、振り返ることも無かった。
いい加減人前で泣くのも恥ずかしくなってくる年頃なのに、あいつは両目から滝のように涙を流して、人前でわんわん泣き喚いた。
挙句、『大ッきらい』だってさ。
馬鹿みたいだった。
「殿下、あんなやつは放っておくのが一番ですよ」
サフィールの背中をぼぅっと見ていた俺にジェイドはそういって、それをネフリーがいつのものように嗜めた。
あいつがあんな風に癇癪起こして泣き喚くのも、ひよこみたいに後をひっついてくるのも、全部お前が原因なんだぞと言いたかった。
でも、それを口に出したらサフィールの目にはジェイドしか映ってないことを認めるみたいでいやだった。
サフィールはジェイドが大好きで、ジェイドはサフィールが大嫌いで、だからどうしようもないんだと思った。
だからこそジェイドをダシにしてサフィールをからかうのはどんな遊びよりも面白かったし、俺はそれを好きだった。
「もう、お兄さんっ・・・!」
ああ、ネフリーに怒られるのも好きだ。
彼らは自分を特別扱いしない、それが気持ちいい。
未来の皇帝相手に『大ッキライ』なんて言っちまうあいつも、まあ悪くは無いんだ。
「ネフリー、今更態度を変えろというのもムリですよ。・・・もう、こればかりはどうしようもない」
髪につもった雪を片手で払って、ジェイドは俺へと視線を向けた。
なんとなくその言葉には棘があって、俺は小さくため息を吐く。
吐く息も、雪も、何もかも白いこの街が今の俺にとっての檻だった。
「そう、だな・・・・」
白、白、白。
雪、雪、雪。
『大ッキライ』だってさ。
ジェイド、お前のせいだぞ。
そんなこと言われちゃ今更、態度変えるわけにもいかないだろ。
あー、俺サイテー。