迎えに来るって、そう言ったのに




あたたかくて、大きな手だった。
頭を優しく撫でてくれるのが、ただ嬉しかった。
『ルークはいい子ですね』って、笑いかけて欲しかったから寂しいのも我慢してちゃんと一人でいい子にしてたよ。

いい子に、してたのに。
どうして、ジェイドは俺を迎えに来てくれなかったの?


針のように細い雨が、体に突き刺さるようだった。
冷たい雨の感触は、だんだんと消えかかっている。
指先の感覚が無い。
体よりも先に心が冷えていくのが分かって、もう指一本だって動かす気にはなれなかった。

なるべく早く帰るから、少なくともあさってまでは。
そういって、ジェイドは俺を家において仕事へ行った。
もう一人じゃなくなった俺は、ジェイドが傍にいてくれないのが辛くて仕方ない。
でも、我が侭を言って捨てられたらと思うと何もいえなかった。
行ってらっしゃいを言いたくなくて、最後の最後まで袖を引いたけど、ジェイドは頭を撫でて額にキスをしてくれたから結局我慢した。
耳が垂れてるのが自分でも分かるくらいだったから、ジェイドはいっそう優しく接してくれた。
それが、嬉しいのに、悲しくて。
きっと、ジェイドがいなくなったら俺はしんじゃうんだろうなぁと。
そう、思う。

だから走った。
何回か朝が来て、夜が来て。
それが数度繰り返されたある朝、雨の音に誘われるように裸足で外へと飛び出して、俺はただジェイドの名前を呼んだ。

「ジェイド、ジェイドっ・・・!どこ・・・、っ!」

石畳の道は濡れて、とても冷たい。
尻尾の付け根が酷く痛んで涙が出そうだ。

「ジェイドっ、ジェイド・・・」

水滴を跳ね上げて、走って、走って。
けど、届かなかった。
ぐら、と体が揺らいでそのまま落ちる。

「っ、い・・・!」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い、痛いよ。
膝がすりむけたのだろう、低い温度の熱がじくじくとくすぶっている。
石畳に爪をたてて、血が出るのもかまわずに引っかいた。
雨なのか、それとも涙なのか、流れる水は傷にしみた。

こんなのはずるい。
一度救い上げて、そこから落とすだなんて!
あの暖かさを知ることさえなければ、こんなに傷つかずにすんだのに。

「捨てないで・・・」

要らなくなった?嫌いになった?なんで、迎えに来てくれないの?


「迎えに来てくれるって、いったのに・・・・!」


枯れた嗚咽は雨音に消えて、冷えた空気に溶けていく。
冷たくなって、消えていく。
空は心のうちを映したように暗く、雨は止まない。

早く、どうか、すくいあげて。


おねがい、だから。