見果てぬ夢 何処までも綺麗に澄んだ景色。 屋根の上から見たグランコクマの風景は、美しかった。 将来何になりたいか。 そんな話を、死霊術師と恐れられる赤い目をした男とした事がある。 かなり前の話だ。 自分が髪を切って暫く。 将来。 うーんと唸って、全く失敬な話ではあるが、彼曰く弱い頭をぐるぐる回す。 小さい頃からそんな事考えもしなかった。 王族である自分の道は全て定められたようなものだったから。 けれど、それから解き放たれて世界を見渡せば。 確かにやりたいことの一つでも見つかりそうではあった。 色々な人を見て、色々な人生を見つめた。 そのどれもが輝いていて、一生懸命に生きている。 そんな様子を思い出して、では自分は一体何になりたいのだろうと考えた。 隣の男は見守るばかり。 何を言うでもなく、椅子に座りコーヒーを飲みながら答えを待っている。 視線を寄せもせず、ただゆっくりと感じる時間を静かに待つ男の傍ら。 自分はうんうんと唸り、手繰り寄せていた夢という糸を、ふと離した。 わからないや。 俺、何になりたいんだろ。 今まで見てこなかった、将来という名前の希望。 何になりたいのかを冷静に考えてみたところで、その希望は生まれてこなかった。 一つの町を殺してしまった。 今までも、色んな人を手にかけた。 そんな自分が将来になりたいものを考えて、はてそれはなんだろうかと思う。 世界中の人を幸せにしろと、親友は言った。 その職業を見出せず、困ったように赤い目を見れば。 そんな顔をしても、私は何も返してやれませんよ。 自分で見つけるべきことです。 ですが、そうですね、もし分からなければ、少しくらい援助をしてあげないこともないですが。 援助ってなんだよ。 首を傾げると、髪を梳かれる。 大きな手、皆に怖がられる男だが、意外に優しい手なのだと最近知った。 大人しく目を閉じると、男の声だけが近くに聞こえる。 「一緒に探してあげますよ」 一緒に。 今でも覚えている、あの手の感触、あの穏やかな声。 見つめる風景は何処までも雄大で美しく光に満ちていた。 あの頃の自分は、いつかあの年上の男と一緒に、夢を見れたらと思っていた。 この景色のように、美しい気持ちをいつか持ってみたいと。 そう考えたのだ。 そうしてようやく自分の為だけに生きたいと願い。 けれど、足元を見たらば崩れて先へ進めなかった。 掴んでいたかったその手を、離すしかなかった。 美しい景色を眺めながら、ただ一人でぽつんと立ち尽くして。 誰もいないのをいい事に、強く唇を噛み締めた。 それは将来を見ることが出来なかった、小さな子供の話。 |