帰ってきたら、ごめんね、と





柔らかい肌も、見つめてくる碧の瞳も、鮮やかな髪の色までも、どこも同じなのだ。
どこも、変わらないのだ。

「    」

「……ルーク?」

目の前に、あれだけ焦がれた姿が現れ、
目の前で、あれだけ焦がれた姿が動く。

それでも、
それなのに、――ただ、そこに在るだけだ。

「     」

「ルーク、……ルーク、聞こえません、なんと、……言ってるのですか」

柔らかな頬を両手で包んで、よくやっていたように視線を合わせる。
穏やかな笑みは以前のような諦め気味のそれではなく、心から安らかで、けれどとてもはかない。

「ルーク、私は……、あなたにずっと、言いたかったことが……」

喉の奥はこんなにも痛くなるものだと、初めて知った。
声はこんなにも出なくなってしまうのだと、初めて感じた。
どうしてこんなときに限ってこうなのだ。己を罵ってみても始まらない。

すきとおった碧の瞳は、あいもかわらず心のおくのおくそこまでもを、どこまでもどこまでも見通してくる。
言いたいことが、確かにあった。
言わなければならないことがあったのだ。

それすらも、言葉として出てはこない。
今、口を開けば、確実に――、

「          」


泣いて、しまう … …


「ルーク、……すみません……」

ぐ、と手のひらを握り締め、声を絞り出す。
あふれそうになる涙をこらえるために、手のひらにつめを立てた。
ルークがさっきから繰り返し繰り返しつぶやく言葉が、同じ単語だと気づいたのだ。
気づいてしまって、また、喉が締め付けられた。

あんなにもひどいことを言った。
あんなにもひどいことを言ったのだ。
それなのにこのこどもは、まだこうして名を呼んでくれている。

「すみません、……私は、ずっとあなたに、謝りたかった……」

謝って済む話でもない。謝れば愛すべきこのこどもが帰ってくるわけでもない。
おそらくは、己が楽になりたかったから、だ。
ずっと謝りたいと思っていた、理由は。

謝ったところで、彼が帰ってくるはずもない。
己が許されるはずもない。
それでも、言っておきたかった。
こんな夜更けに、音もなく現れてくれた最愛のこどもに、どうしても伝えておきたかったのだ。


「ルーク、私は今でも、あなたを……待っています」


けれど、やはり口にすることは出来なかった。
ただ微笑むだけのこどもに、謝罪の言葉はかけられてもそれ以外の言葉は告げられなかった。

「         」

「……ルーク、すみません、私には……、あなたの声がきこえない……」

赤い髪のこどもは、夜の冷えた空気にとけるように、ふんわりと笑った。



やってきたときと同じように、こどもは音もなく帰ってしまった。
また、ひとり のこされた。


「今でも、私は…………、」

好きです、と。
いつになったら、相手の目を見て言えるのだろう。

いつになったら、相手の目を見て謝れるのだろう。


あなたに死んでほしかったわけではないのだ、と。
言い訳がましく聞こえてもいい。


ごめんなさいと、ありがとうと、愛してます、と。


伝えられる日が、くればいい。