あの日の場所で、待ってるから。




しんしん。しんしん。
静かに静かに降りそそぐ雪。

止め処ない雪の空を見上げて、はぁ、と白い息を吐いた。
日も落ち際のこの時間、雪国の寒さは甘くない。
人々は既に家路に着き、少し見回した限り、人影はない。

また息を吐く、薄暗い空気に白く浮かんで、消える。

「なんだかなぁ……」

零れる言葉は、雪に沈んで。
自身に積もっていく白も気にならない、埋もれたいわけじゃないけど、動きたくない。

「いつまでそうしてるつもりです?」

ジェイド。

そう言おうとしたが、音にならなかった。
声が出ない、掠れて、響かない。

手をふわり、包まれて、鈍い痛みを覚える。
かじかむを通り越して体温でさえ熱い、そういえばいつからここに居ただろうか。

「馬鹿は冷やしたって治らないといったはずですよ」

淡々と響くジェイドの声が、頭を通る。

「…、さ」

「ルーク?」

「ここさ、ジェイドが俺のこと認めてくれた場所だよな」

やっと出せた声は思ったより酷くなかった。明るく聞こえる。

偉大なる先駆者の像の前。
いつかの決戦前、ここで彼と話をした。
嫌味で終わると思っていた会話は、予想を裏切って、そう、
嬉しい裏切り方をしてくれたのだ。

「なんとなく、ジェイド、来ないかなーー……って」

「思った」

ははっ、と笑った声は乾いていたかもしれない。


「欲しいですか、」

「なに?」

「欲しいですか、約束」


彼は笑っていた、とてつもなく、優しく、泣きたいくらいに。


「いいよ。大切なのは、いまだから」


微笑みたいと思ったのは本当、伝えたい気持ちも本当。
ただ、上手く笑えたかは分からない。


日の落ちた街に、雪が降り積もる。