ゆびきり 守れない約束なんて、する気は無い。 今なら、アッシュの言葉が分かるような気がした。 流れてく雲に混じる、夕日のオレンジ。 それを眺めながら自分はなんて小さな存在なのだと、それだけを思った。 風に流れてく髪も、空と同じ色。 近い、未来。 きっとこの体は空に溶けて、消えるだろう。 境界がなくなって、世界に溶け込んで、なくなる。 そうしたら、もう―――――――― 「約束、してください」 言われた瞬間、何を言ってるんだと思った。 それが思い切り顔に出てただろうに、ジェイドは表情を変えない。 ガラス越しの紅玉も、いつもと同じように静かに凪いでいるのに一体どうしたのだろう。 もしかしなくても明日は大雨か。 それは大変だ、豪雨の中飛行するアルビオールの乗り心地ははっきり言って悪い。 旅に支障がでるのは、俺以上にジェイドが気にするくせに。 「え、なに?」 聞こえないフリでも、しておけばよかった。 精一杯、普通の表情でそう言ったのに、ジェイドは誤魔化されてくれなかったから。 うっかり涙腺が緩みかけたから風に流れる髪をかきあげるフリをして、目元をほんの少しだけ隠した。 視界が少しだけ狭くなったその隙に、ジェイドの腕が伸びてくる。 あ。思ったときにはもう抱きすくめられていた。 大きな手のひらが肩を抱きこんで、離してくれない。 「ジェイド?どうしたんだよ、らしくないぞ」 「貴方に、言われたくありません」 重みを持たない言葉はあっさりと流されて、結局腕の力が強まっただけだった。 苦しいと背中を叩いても、俺の肩口に顔をうずめたジェイドはもう返事もしなかった。 空気が湿っているのをなんとなく感じて、俺は静かに息を吐いた。 「守れないかもしれない、守りたいけど」 絶対、を。 約束する事はできなかった。 「守りなさい、そのためのものなんですから」 その声があんまり弱々しかったから、俺は思わず笑ってしまった。 泣きたいのを隠すためにそうしたんだって、きっとジェイドは分かってただろうけど。 「嬉しいな、なんか」 オレンジジュースを零したような、一面の橙。 嬉しさと、悲しさで、今すぐ泣いてしまいたい。 この空の色は、泣いて赤く腫れた目元を隠してくれるだろうか。 「ルーク」 息苦しさは、離れてもなくならなかった。 きっと、消えるそのときまでなくならないんだろう。 そんな顔するなよ、ほんとらしくない。 ごめん、心の中で呟いた。 「約束、する」 嘘だ、嘘だよ。 俺はこの約束を守れない、きっと帰って来れない。 けど、こうでもしなきゃ今すぐ壊れてしまいそうで。 「ゆびきり、な?」 守れもしない約束でした。 それを分かっていてした約束でした。 微かに震える指に冷えた体温を絡めて、俺は笑った。 「やくそく」 言い聞かせるようにもう一度言って、目を伏せた。 叶うなら、せめてこの体が世界に溶けても、そばにいさせてください。 |