『指先にキス』 冷えた指先。感覚が無い。 それでも温かい空間に入る事などしないで空を見続ける。 暗闇が包み込む中で街を照らすのは街頭と月明かり。それと幾万もの星。 以前は大して気にしなかった空の変わりように、それを知った嬉しさと、 じんわりと生まれる物悲しさの二つが心の中を支配する。 「……すげぇ、なぁ」 「何がですか?」 「!」 白い息を吐きながら呟いた言葉に返事が返ってくるとは思っても いなかった為(と言うか普通はそうだろう)驚いて振り返ると何時も通りの 笑顔を浮かべたジェイドが立っていた。 「ジェイド…」 「早めに寝なさいと言ったでしょう。生きているとはいえ、生死の境を 彷徨ったのには間違いないのですから」 告げられた言葉に昼間の出来事を思い出す。 世界の為に、死のうと思った。 怖い。怖くない筈なんてない。 それでも、世界が救えるなら、と。 怖かったけど、覚悟した。 だけど 生きてる 例え必ず消えてしまう運命だとしても、それでも生きている事に喜びを感じた。 今までとは世界が違って見えた。 生きているという実感。 もう遅いのかもしれないけれど。 もう、意味の無い事かもしれないけれど。 それでも。 「ルーク」 「ん?」 「少し、失礼します」 一瞬迷うような表情を見せ、すぐに何時もの笑顔に戻ると、完全に冷え切って しまった手をすくい上げて熱を分け与えるように、指先に軽く唇を落とされた。 突然の事に抗議をしようと思い口を開くが、瞳を伏せて行われるその行為に 神聖な雰囲気を感じ取り、自然と口をつぐんで何秒、いや、何分かもしれない その時間の終わりを待った。 「……生きていて、良かった…」 小さく、本当に小さく呟かれた言葉は夜の闇に消える前に辛うじて耳に届き、 その一言に胸が一気に締め付けられるようだった。 だって、俺は。 「ジェイド……」 「すみません。一度は、貴方を切り捨てた筈なのに。 …私は思った異常に貴方に依存しているようです」 笑顔が崩れて、痛みに震えるような、けれどそれを隠すかのような弱い笑み。 心の底からの告白に溢れる涙は止められない。みっともない姿だと思うのに。 止めようとしても余計に涙は溢れ出て呼吸が乱れる。 「ごめ…俺……俺…っ」 「…ルーク」 低い声が耳元で聞こえる。冷え切ってて震える体が抱き締められる。 こんな俺でごめん。傍にいれなくてごめん。 俺も ジェイドが好きだ 指先に落とされたキスと同じように優しいキスが額に、目じりに、唇に落とされ、 ぬくもりがじんわりと広がって又涙が零れた。 消えるまで せめて傍に その願いを込めて ジェイドと同じように指先にキスを落とした |