『うそつき』





「うっわ……」

あまりにあまりのお約束な間違いに、思わず声が出た。
いや結構違うと思うんだ、しっとり感とかさらさら感みたいな感じの。
そんなことを思ったところで目の前の現実は変わるはずもなく。
最後に動かした手の位置のまま、ぎこちなくルークは固まった。

「どうしたんです?」

かかる声にぎぎぎ、と音のしそうな動きで振り向くと、姿勢はそのまま、重く告げた。

「砂糖と塩、間違えた」

「……はあ」

やっぱ呆れてる!!超呆れてる!!

「俺だって好きでやったんじゃねぇよ!間違えやすい置き方すんのが悪――」

「大丈夫ですよ、どっちを入れたんですか?」

半分以上自棄になって叫ぼうとしたところ、にこやかな声が遮った。

「え?砂糖……」

勢いを止められ、促されるまま答えれば、置かれた調味料をひょいと取って

「間違った分、同量の塩を入れればいいんです」

「絶対無理だろ」

即座に返した。
何言ってんだコイツ、いくら俺が世間知らずとかだからって馬鹿にしてねーか?

「おや、随分疑わしげな視線ですね。いいですかルーク、これは古代から伝わる立派な方法なんですよ。
 昔、水場を占拠され途方にくれていた村人の一人が海水を飲み水にできないかと考えました。
 純粋に考えればろ過すればいいんですが、時間のかかる方法ではとても追いつかなかったんです」

ルークの胡散臭げな視線に気付いたのか、ジェイドは頼んでもいないのにつらつらと説明を始めた。

「そこである村人が思いつきました、『同じくらい砂糖を入れればいいのではないか…?』
 早速、微調整をしながらの飲み水製作が始まりました。
 甘すぎたら塩を入れ、塩が多かったら砂糖を入れ……そして、ついに適度な味の水が完成したのです」

「すっげー!!本当にそんなことやった奴いたんだな!っていうか飲めるのかその水!?」

話が終わる頃には両手を握り締め、期待せんばかりの眼差しを向けるルーク。
眼差しを笑って受け止めた相手は手持ちの塩をスッと差し出す。
反射で両手を開いたルークの手の上にぽん、と袋を置くと、

「嘘です」

これ異常ない爽やかな微笑をくれた。

「っっ!!」

「そんなもの飲んだら塩分糖分過剰摂取でたちまち体調不良ですよ」

まさか信じるとは思いませんでした。
はっはっは、と声を上げる相手にぶるぶると震える拳。

――むかつく…!むかつくけどその前に何で信じてるんだ俺!くそっ!

「いいことを教えましょう、ルーク」
「あ?」
「解決方法ですよ、今の状況の」
「あ、あるのか……?」

「素直に謝ればいいんです」
「意味ねーよ!!」

「仕方ないですねぇ、それじゃあ妥協して逃げ道を差し上げましょう」

ちょい、と顎に指をかけ、ルークは軽く引き寄せる。
バランスを崩して塩の袋の落ちる音。

口に触れるのは、温かい……

「口止め料、です。お望みなら誤魔化してあげますよ」

「な、な…!」

唇を離しただけの至近距離で、綺麗な微笑が形作られる。

「ちなみにこれは前金、ということで。残りは夜に頂きますね?」

疑問系だけど否定は受け付けない、そんな尋ね方あるだろうか。
ありえない、この男。

周りには放置された食材が散らばるばかり。
そして何より片付けがたいものが、目の前に。