『教えを請う』







「だって、誰もこんな事教えてくれなかった」

唇を尖らせて、そういった子供は泣きそうになっている目を伏せた。
睫毛の陰が頬に落ちている様が妙に印象に残る。
まるきり子供の仕草なのに、どこか危うい。
子供は知らないうちに成長していくのだから、ほんの少しでも目を離しておきたくない。
すっかりむくれてしまっているルークの腕を掴むと、それは乱暴に振り払われた。


「さ、わんな・・・!」


声が振れていた。
振り払う腕に、ろくに力なんて入っていないくせに。


「俺、子供なのはしょうがないじゃん」


ぽたぽたと涙を零して、嗚咽交じりの声は時折鼻を啜る音で途切れる。
子供だ、自分は今この間にさえそう思っていた。
こんなに綺麗な涙を流すのが、子供以外のなんだというのだろう。


「どんなに頑張っても、ジェイドには追いつけないんだから、ムリなんだから・・・俺は」

「ルーク」


続きを声で制して、抵抗は唇で殺した。
驚いたように見開かれた翡翠色の瞳は、潤んで戸惑ったようにこちらを見ていた。
時を忘れたような僅かな空白の間に抱きしめて、唇を舐める。


「っ、あ・・・!」


開いた口に舌を差し込んで、口腔内を蹂躙すると鼻にかかったような甘い声が漏れた。
握る手に指を絡めて、体温をより近くに感じながら食む。
柔肉を舌でなぞりながら、深く唇を合わせると口の端から唾液が伝った。
くぐもった声で形だけの抵抗を示すルークに視線をやってから、腕を放してやる。
唇が離れる瞬間に歯を立てて、痛みに顔をしかめるその様を見ていた。


「分からない事があったら、教えを請えばいい。子供じゃないんですから、それくらい分かるでしょう?」


意地が悪い、と自分でも思う。
情欲の色に染まりつつある子供の目をまっすぐに見て、誘い込む。
ルークの指が、震えている。
唇が声を発する手前まで、動いて


「・・・おしえてください」


恋が何かすら知らない子供。
キスの仕方一つ分からない子供。
ただ導かれるままに、誘い込まれて。


「いい子ですね」


ああなんて、可愛そうな子。
こんな自分に好かれて、きっと世界で一番不幸。