幸せ




「おかえり、ジェイド」

 扉を開けるとルークがぱたぱたと走り寄ってきた。

「ただいま帰りました」
「ん、おかえり」

 ルークが伸び上がってキスをする。
 いつの間にかそれが習慣になっていた。

「今日は昼間は陛下のところに行っていたのでしょう」
「うん、ブウサギの散歩もしてきた」
「そうですか。ガイも相変わらずですからね」

 話しながらジェイドは寝室に入った。
 着替えはこの部屋にある。

「ああ。今日はついでだから、ガイと手合わせもしたんだ」
「おやおや。どうでしたか」
「ん〜、まだ俺の方が剣に慣れてなくて……」

 彼がこの世界に戻ってきてから2カ月。その間に戦うことは皆無だった。
 以前の動きを思い出すにはもう少しかかるだろう。
 軍服を脱いで白いシャツとズボンに着替えると、ルークは脱いだものをいそいそと畳んだ。
 最近ようやく洗濯の力加減を覚えた彼だが、そこに至るまでには何枚ものシャツが犠牲になった。

「それでは、しばらくガイが剣の相手ですか」
「当たり。明日も行ってくる」

 にっ、と笑うとルークは洗濯物を持ったままぱたぱたと風呂場に消えた。
 それを見送って居間へと向かう。
 テーブルには、ルークが用意していた夕食が並んでいる。

「……見事ににんじんがありませんねえ」

 椅子について見ると、皿に盛られたカレーライスにはにんじんが入っていなかった。
 変わりにマーボー豆腐がこれでもかと入っている。

「お前の好物にしておいたからな」

 入ってきたルークがにこりと笑う。

「それは嬉しいのですが、少々物足りませんねえ」
「う……」

 見やれば、自分でも分かっているのか上目遣いでこちらを見ているルークと目が合う。

「できるだけ、にんじんも入れてくださいね」
「……はい」

 うなずいて食卓につくルークに、ジェイドはくすりと笑うと、スプーンに手を伸ばした。