『夜這い』





 そろそろと。
 足音を消して近づく。
 隣のベッドに近づくだけなのに、心臓がどきどきする。
 それでなくとも人の気配にはさとい相手なのだ。
 なんとか近くには寄ったものの、さて。
 そっと顔をのぞきこむ。
 暗い中にほのかに白い顔が見える。
 闇の中でいつも自分を見つめる赤い瞳は今はまぶたにさえぎられて見えない。
 そっとその顔に自分の顔を寄せる。
 唇を重ねると、わずかに動く気配。
 顔を離すと、相手は軽く息をついたが、目は開けない。
 調子に乗ってそっとベッドに身体を乗せる。
 彼の身体をまたぐようにして顔をのぞきこむ。
 と。
 
「……夜這いですか」

 声と共にぐいっと肩を引き寄せられた。

「うわっ!」
「いけない子ですね」

 彼の身体の上に乗っかる形で抱きしめられる。

「そんなに欲求不満でしたか? ルーク」

 くすくすと笑う声に、かあっと顔を赤らめる。

「そ、そういうわけじゃ……」
「嘘をついてはいけませんよ」

 相手の手が腰を這って、思わずびくんと身体がすくんだ。
 
「や、やめろって馬鹿っ!」
「おやおや。先に夜這いしたのはそちらですが?」

 ぐるん、と身体が反転する。
 いつの間にか、こちらが組み敷かれる形になっていた。

「せっかく誘ってくれたんですから、楽しませていただきましょうか」

 赤い瞳が笑みをたたえていて。
 ルークは、今回も自分の負けだと悟ってぷう、と頬をふくらませた。