「風になったらきもちがいいだろうなー!」


そう言って、大きく手を広げた子供。
駆け抜ける風になって、何処へ行こうというのか。

「何処って、そうだなぁ」

数秒の間顎に手をかけ考える。
子供っぽい仕草でするものだから、危うく抱きしめそうになった。
そんな子供の口からするりと出てきた言葉。

「ジェイドの隣に、かな」

はにかんで笑った。



「…いないじゃないですか」

目が覚めて隣を見た。
風になったあなたは何処にもいない。
私の隣に来ると言ったくせに。
子供は本当に、軽くて気まぐれなようだ。

それは、風のない休みの朝の出来事。
彼が光になって消え、彼の片割れが帰ってきてから、2年目の事。
風になった彼は、いまだ姿を見せず。
いまだ自分は苦しいまま。