届かないもの



空に手を伸ばす。
伸ばしても、空には届かない。
どんなに伸ばしても。この手には何も掴めない。

「何をしているんですか」
「何か掴めるかなって」

背中からかけられた声に、振り向かずに返事をする。

「何か、ですか」
「うん」

それは、たとえば。
自分の生きた証とか。
自分の殺した証とか。
自分の愛した証とか。

「目に見えないものは……手にすることができないんだな」
「そうですか」

きゅ、と。
後ろから腕が包み込んだ。
 
「ですが、こうして存在するものなら掴めますよ」
「……俺の中にあるものも?」
「そうですね……」

肩越しに見上げると、赤い瞳の死霊使いは目を合わせて軽く笑んだ。

「それがあなたを構成するものであるなら、私は掴む事ができますよ」

その言葉に、苦笑して頭を預けた。
この男だって。自分には掴めないものをたくさん抱えているというのに。

「お前ばっかりずるい」
「私はずるい大人ですよ」

頭を撫でられて、今だけは暖かいそのぬくもりに身を任せることにした。
それも、掴めるものではないのだけれど。