君だけの魔法



そう、たとえばこの心一つ揺り動かすことすら一つの魔法だ。
舌に言葉を乗せて紡ぐまでもなく、どんな譜術よりも強力な力。
その声が、名前を呼ぶたび、心が喚ばれる。
強く引かれて、そのまま戻ってこれなくなった。

時計の針が12時をさしても解けない魔法は、いまだ私を呪縛している。
それこそ寝てもさめても、あの光の影がちらついて離れない。
朝日が昇るたびに、隣にルークが居ないことに落胆し、そんな自分を叱咤した。

(私も、弱くなったものですね・・・)

痛む左胸を抑えて、体を起こす。
あの日から切っていない髪はもう随分と伸びて、乱れている。
自分の心のように、ぐしゃぐしゃ。
汗で張り付いた髪をかき上げて、重いまぶたを押し上げる。
ああ、朝がまた来る。
鮮烈な光が目を焼いて、痛くて痛くてたまらないのだ。
重く冷たい息を吐いて、私は待っている。
彼が帰ってくるのを、待っている。

まるで呪いのような、この魔法を彼がといてくれるのを待っている。
私は『おかえりなさい』という言葉だけを持って、一日を迎え、終えて、ただ待つ。


―――私を縛り付ける、貴方だけの魔法