箒星の後に
いつだったか、めぐる季節の夜空を二人で眺めていた。
星座が何かも知らない子供は天体が回るものだということすら知らなかったのだという。
初めて箒星を目にしたときは、それこそ星のように目を輝かせて騒いでいた。
子供だ、と改めて思って無意識に笑みがこぼれた。
「なに、笑ってんだよ・・・」
「いいえ、別に・・・」
彼の世界の夜空は、きっと長い間狭くて四角い小さな空だったのだろう。
窓から眺める空と、広い大地の視界一杯に広がる星空はまるで違う物のようだ。
星空なんて、自分だって意識して眺めたことなんて殆どない。
それらは方角や季節を示すもので、情緒の欠落している自分にとってはそういった機会は無いものだと思い込んでいた
「『別に・・・』とかいいながら笑うな!どうせ子供だと思ってるんだろ!」
ええそうですよ、と言ったらきっとルークは機嫌を損ねてしまうだろう。
ごまかすようにルークの頭を撫でたら、『やっぱり子ども扱いしてる!』と大いに顰蹙を買った。
子供は難しい。
けれどそれが不快なものでないことに気づいていたから、なんだかおかしかった。
「ジェイドのばーか」
「ハイハイ、そうですね」
「・・・俺ジェイドのそういうトコ嫌いだ」
「私は貴方のそういう子供っぽいところも好きですよ」
楽しいのは、真っ赤になって口をもごもごさせているルークを見て楽しむことだとか。
二人だけで星座を眺めることだとか、本当にささやかな幸せだった。
柔らかく穏やかな夜風に吹かれて、大地に立つ。
空の広さが、ただそれだけがとても凄いもののように感じるのは隣にルークがいるからだ。
「あ、ルーク。流れ星ですよ」
「え、ほんと」
こちらに振り向いたルークの手首を掴んで、それ以上の言葉を塞いだ。
こうしていられるのは幸せだけれど、星よりも自分を見てほしいと思うのは傲慢だろうか。
箒星の後に、ただ静かな口付けを。
帚星のあとに another ver
星の煌きは、消え行く命の最後の輝きだという。
尾を引いて、輝きながら消える星。
だからこそ美しいなんて、そんな詩的なことを口にする気はなかったのだけれどその言葉は自然と零れ落ちる。
「きれい、だ・・・」
エルドラントからあふれる光の粒子、中心から伸びる筋は高く伸びる。
言葉もなく、ただ立ち尽くしている仲間をよそに私はその光景を綺麗だと称す。
薄雲を巻き上げ、高く、高く。
流れ星が大地に降り注いだら、きっとこれほどに美しく強烈な光を放つのだろう。
ルークが好きだと言っていた、いつかの星空のように、美しく、儚い。
星屑のようにきらきらと、世界に溶けて消えるルークは何を思うのだろう。
どんな思いを抱いて、死ぬのだろうか。
「ルーク、っ・・・!」
嗚咽の混じった声は、誰のものだっただろう。
泣き崩れて、地に臥せり、ルークと、呼んだのは誰だっただろう。
恋い乞う声は、誰のものだっただろう。
箒星よりも尊く、彼は美しい。
別れなど、言えるはずもない。
だからせめて、星に願いを。