なぜ過去は静かに死んでいってくれないのか。 不意にそんなことを思う。 |
彼らにとっての過去は、俺にとって現在であり、進行中。 それは俺以外のほかの誰にも分からないことで、仕方のないこと。 なんて、感傷に浸ってるのが馬鹿らしくなるくらい、彼らは今日も彼ららしく生きている。 「書類の提出はほとんど済んでいるだろう。少しくらい休ませろ」 「そういう言葉は”完全に”書類を提出し終えてから言っていただきたいですね、陛下」 本日の陛下の仕事状況・・・まぁ、まだマシなほう。 ジェイドが昼の休憩を終えて宮殿で陛下に仕事の催促を始めて三時間が経過したときだった。 お茶の時間だなんだと子供のようなことを言いながら陛下が休憩を要求するのはもう時間の問題。 皆と一緒に旅をしていたあのころはこれでいいものかと思っていたものだが、なんだかんだいいながらも陛下はやるべきことはしっかり終わらせている。 単調な仕事は体がだるくなる、そうつまらなそうに零してはいるものの本当にそれを怠ったことはない。 彼は国民を確かに愛していたし、自分が背負ったものにきちんと責任を持っている。 「・・・俺がこんなに頑張って仕事してるのに自分はさっさと昼休憩取ったくせに!俺は昼飯もまだ食ってないんだぞ」 あ、そうなんだ。 「おや、それは存じ上げませんでした」 張り付いたような、無表情に近いようなジェイドの笑顔はまったく変わらない。 悪びれた様子も感じられず、陛下は大きくため息をつく。 俺は今日も今日とて昼休み中のジェイドに張り付いていったので、そのことは知らない。 ジェイドもその話を誰かから聞いたわけではないから、なんとなく分かっていたか・・・あるいは、”そんなことどうでもいい”、と。 「なんにせよ、早く終えていただきたいものですね」 ・・・思ってるんだな。多分。 執務室で繰り広げられる二人の応酬は、内容は違っても日常的に起こっていることだ。 これが彼らなりのスキンシップなのだろうか。 首を傾げてみても、俺に答えがわかるはずもない。 本人に知られたらプライバシーの侵害もいいところだといわれそうなくらい、勝手に引っ付いてるのに(でも、ちゃんと自分ルールは決めてるんだぞ)、俺はまだジェイドについて知らないことが多すぎる。 しらない、しらない、なにも。 『生きてるうちに、知りたかったな』 小言を繰り返すジェイドへ、そう話しかけた。 この体に心臓という期間があるかはよくわからないけれど、胸のあたりがなんだか重くて苦しい。 夏の空みたいにからからに渇いて、ひび割れた俺は涙を流すこともできない。 この体が、ひどく呪わしい。 ”ほ ん と う に ・ ・ ・ ?” ”お ま え が 、 の ぞ ん だ こ と な の に ?” ------耳鳴り、が。 ”い っ た 、 ろ う ?” とまらない----! ”しにたくない、しにたくない、しにたくない、しにたくない、しにたくない、しにたくない、しにたくないしにたくないしにたくないしにたくない、死にたくない!!!!!” -----------”俺はまだ、ジェイドと一緒にいたい” 目の前で、広く光が散って 次の瞬間には地面からあふれる黒い影に引き込まれていた。 目の前に、彼らが居ても自分の姿は気づかれない。 さらわれていく、闇に。 闇から手を、彼へ向けた。 とられるはずもない、このてを。 ばちん! スイッチが切り替わるように、視界が開ける。 まるで、夢。 |