Hello, Hello,Hello,Good night!! Trick or treat. Trick or treat. I want something good to eat. Trick or treat. Trick or treat. Give me something nice and sweet. Give me candy and an apple, too. And I won't play a trick on you! さぁハロウィーンナイトがやってくる。 たった一度の、夜。 さぁ来るぞ、さぁ来るぞ。 おどろおどろしい幽霊が、化け物が、魔女が、君に悪戯をしにやってくる! 悪霊を追い払わなくちゃ、さぁ行こう、そら行こう。 薪をくべて、火を焚いて! やってくるよ、ハロウィン・ナイト! |
Halloween's Ghost
楡に柊、榛で出来たリースが家々のドアにかけられている。 悪魔よけの護符にしてはいやにかわいらしく、けれどおどろおどろしく飾り付けられたそれはチカチカと光る電灯と、沈みかけた太陽にさらされている。その風景を見ながら、子供達はそわそわと浮き足立つ。 ハロウィーンの夜を前に、子供達は浮き足立って今か今かと夜を待っていた。 ジャック・オ・ランタンと同系色のオレンジが空に満ちれば、ハロウィンナイトはすぐそこだ。 秋の収穫を祝い、災厄をつれてくる悪魔を追い払うという宗教的な意味合いを持った記念日も、子供達にとってみたらお菓子が貰えるというその楽しみだけである。 グランコクマの有名なイベントの1つ、ハロウィーンの仮装行列まで後数十分。 世界各地からこの名物を目にしようと観光に来る人も、稀ではない。 日暮れの時刻になろうとも、グランコクマの華やかな賑やかさは変わらず、今日ともなればことさらだった。 「トリック オア、トリート!」 たどたどしいその声に振り返る。 待ちきれないのか早くも小さなウィッチが目をキラキラさせながらこちらを見上げている。 軍部からの道すがら、変わらず軍服のままの自分に声をかける子供もいるとは。 「ハッピーハロウィン、小さな魔女殿」 子供達は少なくとも3人以上、1グループに付き保護者1人付きで行動させるというのが暗黙の了解となっている。 各地から観光客が大量に国内に流れ込んでいるこの時期に、風習とはいえ子供だけにしておくのは治安維持のためにもよくない。なので軍部もこの日ばかりは町の治安維持のため、通常の何倍もの人数が警護に借り出される。 この子のように、迷子の子供は例年何人も出るためだ。 ポケットからオレンジ色の包みに入った飴玉を少女に渡し、その頭をなでた。 周りを見回してみても、少女と組んでいるらしき子供は見当たらない。 少女は嬉しそうに渡された飴を持っているバスケットの中に入れた。 「ありがとう」 無邪気な笑みに、君主の馬鹿げた提案も今となっては良かったと思える。 あまり想像もしたくない事実だが、”勅命”として賜った本日の軍部の命の1つが”これ”なのである。せっかくのハロウィーンなのだから、と渡されたのは色とりどりの包み紙にくるまれた飴玉やマシュマロ、クッキー。軍人や警護の兵にいたるまで、全員が今夜はポケットの中にそれを忍ばせている。地位に関係なく、例えば全身岩のような強面の、子供が見たら思わず泣いてしまうような面相の軍人でさえ、そうなのだ!考えてみると、なんとも恐ろしい。 「ところで小さな魔女殿、お友達はそばにいらっしゃいますか?」 その言葉にはっとしたように、少女はせわしなく首を動かしてあたりへ視線をやった。 人垣を何度も何度も往復し、そうして視線を正面に戻すと少女はくしゃりと顔をゆがめた。 「わ、わからない…わたし、迷子に……」 「大丈夫ですよ。おじさんは軍人なんです、小さな魔女殿をお友達の下へ連れて行ってあげましょう」 泣いている子供は、苦手だ。 寸前の子供をなだめるためにそう言って、ポケットからもう1つ飴を取り出した。 赤い包み紙の飴だった。 少女は飴を受け取って、もうそこまでやってきている涙を引っ込めた。 フード付きの黒いケープを纏った少女はなかなか利口なようで、しっかりと自分の纏う軍服を確認してから何度も頷く。 「エリザとリアと、それから、アディーと一緒に、いたの」 友人の名前だろう、女性の名前を3つほど挙げて少女はせわしなく目を動かしている。 不安そうな少女をとりあえず人の波から連れ出す。 はぐれないようにとつないだ手はとても小さかった。 聞いた名前の1つに、知ったものがあった。 城に勤めている古参のメイドと同じものだ。 さして珍しくも無い名だ、同名かとも思ったが確認のために少女に尋ねたフルネームに少女は勢いよく首を縦に振る。まぁ、よい種類の偶然である。聞けば従兄弟であるという。 身元がしっかりと分かれば探し相手はすぐに見つかるだろう。 「わぁ、すごいのね!何で分かるの?まるで魔法使いみたい!」 なんでもないような偶然も、小さな子供にしてみればまるで奇跡だ。 「ええ、実はそうなんです」 内緒ですよ、とおどけながら少女の耳元で言うが彼女は真面目に返事をした。 その無垢さといったら、いっそあきれ返るほどである。 子供は苦手だ、ただ嫌いではない。 「早くお友達を見つけないと、仮装行列が始まってしまいますよ」 再び小さな手をとって歩き出す。 行き先は軍本部付近に設置されている臨時”迷子センター”だ。 近づくにつれて、甲高い子供の声が聞こえてくる。 早くも迷子になったのはどうやらこの少女だけではないようだ。 「ねぇ、魔法使いさん」 「何でしょう、小さな魔女殿」 「あのね、あのね、お礼にいいものあげるわ」 少女はつないだ手をくい、と一度引っ張って壁際で立ち止まる。 引っ掛けていたバスケットに手を突っ込んでかき混ぜながら、そうして1つのものを取り出して目の前まで持ってきた。 「はい、わたしがつくったのよ。とっても優しい魔法使いさんに、お礼」 彼女が取り出したのは、やや不恰好な手作りのリースだった。 柊の枝を編みこみ、葉と小さな実で飾りつけがしてある。 少女の手のひらに乗るくらいの小さなそれに、片手で触れた。 今日というこの日は、どんな家にもこのリースが飾り付けられている。 幽霊や化け物を追い払うための、護符。 けれど自分の家にそれは無い。 「すみません、お嬢さん。せっかくのお礼ですが、私の家にそれは必要ないのです」 「まぁ、どうして?これがなくっちゃ、幽霊が来ちゃうのよ」 「いいんです、私はずっと幽霊を待っているのですから」 少女の手にリースを握らせ、それをバスケットに戻した。 「ですからこれは、どうぞお友達におあげなさい」 もともとその用途でバスケットに入れていたはずなのだから。 かくあるごとく。 ひときわ明るい光が近づいてくる。 もう既に、夜の帳は下りていて仮装行列もいまに始まりそうだ。 手をつないだままの少女はそわそわとして、繭をハの字に曲げている。 「ルカ!」 そのときだった。 ちょうど軍部前のテントに差し掛かったところで、少女と同じ年の頃だろう二人組が駆け寄ってくる。 ルカ、というのが少女の名前なのだろう。 「エリザ、リア!!」 少女は手を離して、二人に駆け寄る。 もう、どこへ行っていたの。 心配したのよ。 ごめんなさい、でもね。 子供というのは、どうにもせわしない。 矢次に飛び出してくる言葉も、けれど仮装行列開始の鐘の音にかき消され、今度は嬉々としたはしゃぎ声に変わる。気を抜いているとあちこちに歩き回ってしまう子供の後ろに、1人大人が付き添っている。よく見知った顔のメイドがこちらに気付き、恭しく礼をした。軽く手を上げて返したが、そうしている間にも子供達はあちらこちらへとくるくる動いている。 迷子の小さな魔女が最後にこちらに手を振って、そうして彼女達は人垣に消えた。 動き出した仮装行列がこの場から遠ざかってから、そうしてようやく帰途につく。 自邸がある場所には仮装行列の一団は来ないことになっている(ルートを知ることが出来るのも一部特権のおかげである)ので、もう余計な気を張ることも無い。 銀色のドアノブに手をやって、そうして、動きを止めた。 この家のドアに、魔よけのリースは無い。 ああ、幽霊でだって会えるのなら。 遠くに聞こえるハロウィーンの歌が耳をすり抜けて、夜の闇に解けていく。 貴方が死んでから何度目かのハロウィーン。 変わらずこの家にリースは無いのに、幽霊は一度たりとも現れない。 そうして今年も、貴方に会えないままハロウィーンは終わってしまった。 Hello, Hello,Hello,Good night!! Trick or treat. Trick or treat. I want something good to eat. Trick or treat. Trick or treat. Give me something nice and sweet. Give me candy and an apple, too. And I won't play a trick on you! さぁハロウィーンナイトがやってくる。 たった一度の、夜。 さぁ来るぞ、さぁ来るぞ。 おどろおどろしい幽霊が、化け物が、魔女が、君に悪戯をしにやってくる! 悪霊を追い払わなくちゃ、さぁ行こう、そら行こう。 薪をくべて、火を焚いて! やってくるよ、ハロウィン・ナイト! お菓子も悪戯も、いらないから。 欲しいのは貴方だけ。 |