空が広いと感じたのは初めてだった。
屋敷から見る空や、ほんの時々外に出た時にみる空。
それのどれとも違ってみえる今の空が、とても不思議だ。
青くて、広い。
「当たり前じゃん、空なんだから」
「そーなんだけどさ」
柔らかい風が吹き抜けて、黄色のリボンで結わえてあるアニスの髪を揺らす。
平野を超える途中、もう街も近くなってモンスターも出なくなってきたので俺達は休憩をとることにした。
一気に街まで行ってしまってもよかったが、イオンの気分が悪そうだったので昼食も兼ねての事だった。
ジェイドお手製のサンドイッチを頬張りながら、俺とアニスはぼーっと空を見ていた。
見張りはジェイドとガイが引き受け、ティアとナタリアはイオンの具合を見ていた。
俺達は2人してなぜパンで具を挟むだけの料理がジェイドの方が上手いのかという問題について討論した後、答えのでないそれに飽きて空を見上げる。
「あの雲ミュウに似てるなー」
「ん?どれどれっ?」
「あれだよ、あのとなりの」
「あー、たしかに!あのバランスの悪そうな頭の形、そっくり」
「ご主人様ー!ミュウ呼びましたの〜?」
てこてこてこ。
イオンに付き添っていたはずのミュウがこちらへとかけてくる。
歩幅は俺達の半分もないだろうに、その足取りは妙に速い。
「別に、呼んでねぇ」
「ふぁ!?で、でも今名前呼びましたのっ、聞こえましたのっ!」
重そうな頭をゆらゆらと揺らして、ミュウはてをバタバタと動かす。
ティアがいたら、たまらず『かわいい・・・』と感無量になりそうな動きだ。
「今雲の形がミュウに似てるって話してたの、ほらアレ」
「わぁ〜、ほんとですの・・・」
頭を上に傾けて、アニスの指差すほうを向いて頷くミュウ。
けどやっぱりバランスの悪さの所為だろうか、上を向きすぎてそのままコテンと後ろに倒れ込んだ。
「みゅっ!?みゅぅううっ・・・」
「まぬけー」
小さく罵倒しても、ミュウは相変わらずだった。
起き上がってくる様子があまりにも必死だったので、指でコツン・・・と押すとまた倒れる。
ミュウはころん、とそのまま転がってどこかへいってしまいそうな勢いのまま地面にべしゃりと突っ伏した。
特に面白くも無いけど、何度も何度も同じ事を繰り返した。
ミュウも懲りずに同じ動作を繰り返すので、ついついこちらも続けてしまうんだ。うん。
「ルーク、そろそろやめないと後ろからティアの視線が痛いよー!」
「んぁ?」
囁くような小声でアニスが言うので、チラリと振り向いてみればイオンに回復術をかけながらこちらをにらむティアと視線があった。
可愛いもの好きのティアは、ミュウのことについては非常に口うるさい。
別にいいじゃないかと軽くいってみれば、そんなわけないじゃない!と本気で怒鳴り返される。
・・・・ちょっと、怖かった。
そのちょっと怖いものが混じった視線を受け続けるのも嫌なので、俺はまだ残っていたサンドイッチをぺろりと平らげて知らんぷりをした。
「ティアってたまに怖いよね・・・」
「・・・同感」
「?ティアさんは優しいですの〜!」
そりゃ、お前にはな。
もぐもぐと具を飲み込む途中なので言わなかったけど。
ごくん、と飲み込んで。
「ごっそさん」
「ごちそーさま!」
「ですのっ!」
青空の下で食べるサンドイッチは、特別にうまい。
空が広くて青いのも、ジェイドの作るサンドイッチがうまいのも、最近ではごく当たり前のこと。
手を伸ばせば届きそうな距離に、いつもと変わらない・・・あお。