無防備にさらされた首元に触れて、トクリと脈打つ血液を感じなければ死んでいたかと思ったかもしれない。
手袋越しで伝わりにくい体温は、それでも自分より温かい。
「ここまで近寄って起きないとは・・・少々問題がありますねぇ」
やろうと思えば、今すぐ首を絞めて窒息死させられるほどの距離でなぜこの子供は安心して眠っていられるのだろう。
武器を出すまでもない、戦いのための言の葉を舌に乗せるまでもない。
ただ、この腕一本で殺せてしまう距離で。
慣れない戦いに疲れ切っているとはいえ、これではあまりにも無防備だ。
あの過保護な使用人は、今まで何を教えてきたのだろう。
深く、深く、やわらかな表情で眠ることか。
「反吐が出る」
今まで見たこともない『いきもの』だ。
子供なんてものは前々から得意な生物ではないと思っていたが、そういう類のものとは違う。
腹の底から、黒いものが湧き上がって来る。
汚してやりたくなった、こんな、こんな、いっそ愛しいくらいに憎たらしいものが。
分厚い皮で覆い隠す、いつものように。
いつか殺してやろうかと、思いながら。
理由も無く、ただ苛立つ、ただ憎い。
理解のできない感情なんて、一生いらなかった。
そんなものを与えられて、どうしろというのだ。
ああ、憎い。
憎い。
無知な子供を無意識に追う自分の目も、その子供自身も、たまらなく憎かった。