頭痛がするほどくたくたになって、ようやく仕事を終えたとき。
沈み込む、気持ち悪いほどの弾力のソファにふと彼を思い出す。
スプリングの反動、そんな僅かな刺激すら、それを思い出せる材料になるのだとこの時初めて知った。
あの、柳のようにしなやかだった彼の腕が、足が、このソファに納まっていた頃を、思い出す。
猫のように背を丸めて、先に帰るようにと何遍行っても彼は聞かずにいつもこの場所で私を待っていた。
何もせず、あるいは何かをしているときに、そう、彼はこの場所に身を沈めて。
”ジェイド、まだ?”
年端もいかない、幼い子供のせがむような、声に。
”もう少しですから、待ちなさい”
いつも、そうやってかえした。
その”もう少し”の間に、彼はいつも待ちきれずに小さな寝息を立てていた。
そんな光景を、夢のようだと思う。
それとも、この記憶の中の彼も、夢だというのだろうか。
鮮明すぎるほどに鮮明で、ありとあらゆる日常に彼が住む。
たまらなく苦しく、同時に嬉しかった。

まだ、忘れていない。

まだ、忘れられない。


彼を思い出させる色のソファ、少し色あせたそれを、撫ぜる。
思い出を、一つ。

こうして、時の過ぎるごとに、彼がすぐ隣で生きていた頃の思い出を、ただただ反芻するのだ。









色あせたソファ