言い訳


どこにいても目を引く、その色。
それはただ単に目立つからだとか、そんな理由ではない。
自分の目がそちらを向いてしまうのは、そんな単純極まりない理由であるはずが、ないのだ。


夕焼け空に、風に流されてひらひらと同系色の色が散る。
前を歩くルークの顔は見なくても不機嫌だと知れる。
張った肩が後ろからは良く見えて、その子供っぽい仕草は強く目に焼きついた。
図体ばかり育った、そう、まるで子供。
我侭なのは子供特有のものか、それとも箱入りの世間知らずなのか、その両方か。

腰を超えるほどの長い髪は王族の男児特有のもので、夜になる前の空の色。
賞賛に値するのは、正直それくらいのものだと思った。
なにかの祭典の折り、または戦場で見た彼の一族も似たような色を持っていたが、彼と同じではなかった。
どこか異質な、揺らめいている焔のような色を、はじめて見たとき。
純粋に綺麗だと思った。


「あんた、何じろじろ見てるんだよ」


思案にふけっていたのか、対応が遅れた。
ぼやけていた焦点を合わせると、ルークがこちらを見ていた。
案の定、不機嫌を隠そうともしていない。


「別に、そんなつもりは無かったのですが」

「嘘つけ、さっきから視線がウゼェんだよ」


あれほど、美しいのに。
どうして、こう、憎らしいのだろう。
学もなく、力もなく、浅はかなだけの子供には、家柄以外の価値も無い。


「気に障ったのなら謝ります。すみませんでした」


敬意を払う相手ではないと、認識する。
ただ表面的な謝罪を述べれば、彼はぐ、と拳を握って地団駄を踏んだ。
語彙の少ない彼らしい罵倒が右から左へと通り抜け、もう溜息も出ない。
そうして荒く肩をつきながら、彼は言うのだ。


「あんたなんて、ダイキライだ」


私も、キライですよ、アンタみたいなお坊ちゃんは。

思ったけれど、言わなかった。
そんな間にさえ、私の目はただ彼の色にとらわれて、それが嫌でなかったから言えなかった。

彼は”ダイキライ”だったけれど、彼の持つ色がそうでなかったから。
そういいわけをして、結局隠すような笑みを浮かべてやり過ごした。