「無茶が過ぎると、ガイにも言われたばかりでしょう」
そう言って俺をたしなめるジェイドは、わざとらしく大きなため息をついた。
どんなに嫌味ったらしくても、手当てをしてもらっている身として文句を言うわけにもいかず俺はジェイドから顔を背ける。
実際、本当のことだ。
でもそれを素直に謝る気にさせてくれないのがジェイドの言葉だ、自分が悪いのは本当にわかってるつもりなのに。
ジェイドはそうやってオレを叱りながら、くるくるとオレの腕に包帯を巻いていく。
ティアの回復術で傷はふさがったけど、こうでもしないとオレはすぐに怪我のことを忘れて敵に突っ込んでいくからってジェイドがつい最近はじめた習慣だ。
そう、習慣というほどオレはよく怪我をしている。
もちろん命のかかわるほど重要なものでもないし、ティアやナタリアに回復してもらうほどでもない。
ただガイが必要以上に騒ぎ立てるから、それを見かねた対応策なんだろう。
前はそうやって心配されるのが子ども扱いされてるみたいですごく嫌だった。
でも、今はオレのことを心配してくれてるっていうのがすごく分かるからちょっとだけ、嬉しいのもある。
マクガヴァンさんがジェイドが人を叱るのは気に入ってるからだって聞いたときも、本当かどうかは別としてやっぱり嬉しかった。
「ルーク、聞いているんですか?」
「・・・聞いてるよ」
軍人のジェイドにとっては応急処置などお手の物で、あっという間に終わってしまった。
左腕の包帯はやはり目立って、たいした怪我でもないのに気分が滅入る。
「お返事は?」
眼鏡越しの紅い目は薄く笑っていて、ケテルブルクにいるわけでもないのに鳥肌が立った。
「な、なるべく無茶しないようにする・・・」
「よろしい。もう夜も遅いですし、早く寝なさい」
「ん、ジェイドは寝ないのか?」
隣室のガイとイオンはもうすでに寝ているようだった。夜の大分遅く、オレも正直眠かった。
朝夜規則正しく生活していた俺にとって、夜更かしは結構つらい。
昼間の戦闘で体力も消耗しているし、早く寝てしまいたいというのが本音だ。
でもジェイドはドアノブに手をかけ、出かける様子だった。
「ええ・・・ちょっと、ね。ですからルークは先に寝ていて下さい」
妙に含みのある言葉が気になって仕方ないが、問いただすのも怖い。
この時間町に出かけるとなると、行く先はおそらく酒場だろう。
俺たちに必要な情報を手に入れてくるのは、いつだってジェイドだ。
「あんま遅くなんなよ、アンタだって疲れてるだろ」
「おや、お坊ちゃんはそばに誰かいないと眠れませんか」
「なっ・・・!別にそんなこと言ってねぇ!」
とっさに声を荒げてからここは宿屋の一室で、今が夜中だということを思い出す。
ジェイドを見ると口元に人差し指をあててクスクス笑っていた。
「しー、ですよ」
「う・・・」
どうせ、子供っぽいとか、子供っぽいとか、子供っぽいとか、思ってるんだろう。
結構自分でも気にしてるのに。
年齢が一回り近く離れてるんだから、ジェイドにしてみればオレは十分子供だろうけど。
からかわれてムキになってるのが自分でも恥ずかしくなって、オレは枕を顔に押し当ててボスンとベッドに横になった。
二人でいる空気が急に居心地悪くなって、ガイのところにミュウをおいてきてしまったことを激しく後悔した。
「・・・仕方ありませんねえ」
「は?え、おいっ・・・」
声に反応して枕から顔を上げ、視界がクリアになった瞬間ジェイドの顔が目の前にあった。
ドアから3,4歩歩けばすぐそばの距離だ、5秒も必要なかった。
ドサッ、という音とともにベッドが重みに弾んだ。
状況把握もできないうちに、気づけばジェイドはオレのベッドに入ってきて、俺を抱えるように寝転んでいた。
「そんな目で、おいていくなオーラ全開のお子様を残して夜遊びに出るほど私も鬼じゃありませんから、今日のところは出かけるのもやめてあげましょうかね」
右手中指で引っ掛けるように眼鏡をはずしてサイドボードに置くと、今度は靴を行儀悪く放り投げるように脱いでオタオタしているオレの上に布団をかけた。
その上からあやすようにぽんぽん、とやさしく叩かれてようやく意識が戻ってくる。
「おまっ・・!何考えてんだよっ、この・・・」
「んん〜、わがままなお子様ですね・・・腕枕してほしいなら正直に言いなさい」
「・・・・・・もういいです」
「ハイ、おやすみなさい」
「オヤスミナサイ・・・」
腕に巻かれた包帯。
怪我をしないように、馬鹿なオレが怪我を忘れないようにと巻いた包帯。
見るたびに思い出すいけ好かない顔。
怪我よりもコイツの顔を思い出してしまうのは、なんだか癪だ。
オレだって、怪我するのは嫌いだ。
でも、誰かを守るための怪我ならそれも悪くないって思える。
そう、思える。
ジェイドを守るなら、別に怪我だって平気・・・なんて本人にはとてもいえない。