ああそうだ、心の奥底に引っかかっていた違和感。
それに当てはめる確かな言葉を僕は今まで知らなかった。
「ルーク」
雲の隙間から漏れる柔らかい光を受けて、彼の髪が炎のように揺らめいていた。
風に乗せるように彼の名を呼んだ。
なんだ、と。
彼は少し不機嫌そうに振り返る。
不機嫌そう、というよりは不機嫌そのものなのだろう。
手のひらを爪でカリカリと引っかいて、彼は気を紛らわそうとしていた。
無意識なのかもしれないが、彼は時折そうやって布越しに小さな傷を作っている。
「お話、しましょう?」
僕はその手を取って、出来る限りの笑顔をルークに向けた。
急に詰められた距離に、ルークはきょとんとしている。
「あ、俺・・・」
「僕、ルークとお話したいんです」
『今、そんな気分じゃない』僕はその言葉を塞いで、強引に要求をぶつけた。
ふよふよと宙を漂っている彼の視線を僕は見なかったことにして、背後にいるジェイドからルークを隠すように手を引いた。
「駄目ですか?」
ルークは優しいから、『嫌』だなんて絶対言わない。
分かっていて言う僕は、とても意地が悪い。
彼は一瞬ためらったようにして、彷徨わせていた視線を僕の後ろへと向けた。
息を吐くように、声としてでなく音を発した。
それは誰にも聞こえない声で、ジェイドにだけ伝わる声だ。
ルークは、ジェイドの事が好きだ。
僕がルークを好きなのとは違う意味で(僕はルークがそれはそれは、とてつもなくすきなのだけれど、どうやらそれとも意味が違うのだと僕は本能的に悟る)ルークはジェイドが好きだ。
ジェイドもルークが好きで、これはきっと世間一般で言う『相思相愛』という状態なのだろう。
それはとても幸せで、あたたかい。
ジェイドのルークを見る目が、いつしか愛しみを含むようになったとき僕は何だか喉の奥に物でも詰まっているような、小さな息苦しさを感じた。
僕はジェイドが(ルークほどではきっと、ないけれど)好きだったし、彼がルークを好きでいてくれるという事は嬉しかったはずなのに。
「・・・うん、いいよ」
ルークはジェイドと話がしたかったんだと思う。
これは僕が勝手に思っていることなのだけれど、でも離れたところから一心にジェイドに視線を送るルークはいつもかまって欲しそうに見えたから。
そう、これは『嫉妬』だ。
生まれてからはじめて知った、この感情のなんと重苦しい事だろう!
自分がとても汚い存在に思えて、今すぐ二人に謝りたいような衝動に駆られる。
なのに繋いだ手を放す事ができずに、僕は笑ったままこの感情に知らんぷりをしているのだ。なかなか言い出せずに、踏ん切りのつかないまま募る負の感情を溜め込むよりは良いと、そうやって納得させる。自分も、ルークも、もっと素直になれたらよかったのに。
僕がすきなのはジェイドを好きなルークだから、これ以上の意地悪はしないけど。
僕の後ろで、僕以上の知らんぷりを決め込んでいるジェイドへ。
あと一時間だけ、ルークをお借りします。