その言葉を紡ぐことはもはや破壊行為に等しかった。
否、それ以外の何であるというのだろう。
それ以外に形容のしようもなく、どうしようもないほどに破壊的。
壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、壊して、修復という言葉など記憶から抹消されるほどの絶対的な破壊を。
薄く開いた唇がゆっくりとひらいて、音が言葉になる。
「好き」
道に捨てられた子犬のような目をして、子供が見上げてきた。
もう幾夜と悪夢に魘されてうわごとを呟いてきた子供に私は今日も戯言を吐いていた。
夜の闇はいつも静かで、それを乱すのは震える声だったはずなのだ。
いつもと違ったのは、かたく瞑った目をルークが開いたということ。
交わるはずのない視線が交わって、伸ばしていたはずの手に手が重ねられているということ。
瞠目して、言葉を出しかけて、喉が引きつった。
左手でシーツを掴むから、いつもそちら側だけがぐしゃぐしゃに乱れて痕になる。
そんな些細な所作も全部、知っていた。
一つ一つそれを辿りながらベッドの縁へ座る。
ギシ、と小さな音が鳴ったが、まるでなかったかのようにすぐに消えた。
汗と涙に濡れたシーツに胎児のようにくるまったルークの髪を掬って、まじないごとのように呟いた。
決して聞かれてはいけないはずの言葉を、誰にも知られてはいけないはずの言葉を。
私が口にしていた言葉を繰り返すように、ルークはたどたどしく言うのだ。
「あいしてる」
これはまるで刷り込みだ。
自分の愚かさを呪う前に、勝手にに動く心を叱咤して、肩を抱こうと宙を彷徨っている手を下ろす。
「だから、捨てないで。一人にしないで」
ああ、この子はただの子供だ。
ただの幼い子供なのだ。
捨てられることを恐れて、縋る、ただの子供だ。
「あいしてくれるなら、捨てないで」
その言葉は完膚なきまでに私を破壊して、捉えて、話さなかった。
悪いのは自分自身なのだからと、愛しているといってその場所を与えたのも自分だからと。
両腕を伸ばして縋ろうとするルークの手を払ってシーツに縫い付けた。
せめて拠り所になってやろうなんて、思わなかった。
この体を動かしているのは、紛れもない恋情だったのだから。