今思ってみれば一月なんてあっけない。
一日は24時間で、おおよそそれを30日続ければいいだけだ。
それで終了、ああ、それだけのこと。
軍属として、国という機関で、それらしく生きる人間ならば自分のためにさける時間など無いに等しい。
そんなことは分かりきっていたはずで、それが長く日常だった。
ただ長い長い人生の何十分の一、何百分の一、何千分の一かの時間の例外を除いては。
その時間にしてみたって、まごうことなき仕事であって自由であったわけではない。
朝、いつも通りに起きる。
この間、殴っても起きようとしない寝坊常習犯を待つ必要は無い。
朝食をとる。
自分で作る必要すらなく、むしろ食事という行為が単なる栄養補給だと再確認するに至った。
一人でとる食事は、味覚を損なわせる材料としては十分であることも。
軍本部へ。
留守の間溜まり溜まったデスクの上は、処理法を考えるのにも頭を痛める。
執務室の一角、目を向けないようにと意識を払っている箇所に陣取った人間と家畜一匹が今日も仕事の邪魔にやってくる。
余談だが炎系譜術でお気に入りの家畜を丸焼きにしてやろうかと考えたのは一度や二度ではない。
さぞ香ばしい匂いがするでしょうね、とそれだけ呟くとくだらない言葉の応酬が続く。
「お前はどこの鬼だ!こんな可愛い生き物を食おうってか!」
「どこのもなにも、貴方の国のですが何か?それに元々食用の生物じゃないですか」
「あーっ、くそカワイクねー!!せっかく気を使って『ルーク』をつれてきてやったっていうのに」
そんな本人の面影がかけらも無い生物にその名前をつけられても、と抗議しても改名に至らないであろうことは予測がついたので何も言わなかった。
「どうせ気を使ってくださるというのならさっさと出て行ってください。邪魔です」
「それじゃ俺がつまらんだろう?」
「私の知ったことではありません」
「知っとけ」
「嫌です」
出来る限り、思い出したくなかったのに。
せめてつまらない考えに没頭する時間を排除するくらいのことはして欲しかった。
機械的な作業であまった思考で考えるのは、ただひとつのことだったのに。
頭を殴打してこの考えが消えるというのなら、喜んで自ら実行しただろう。
どう一日を過ごしても付きまとうものが、じわじわとこの身を侵す。
つらい。
こんな思いをすることが、いっそ屈辱的でならない。
きえろ。
憎憎しげに、心の中でそう思った。
何をするにもその中で『ルーク』を探して比較している自分の弱さか、あるいはその存在自身か。
きえろ。
重苦しい言葉はいつしか口から滑って、音になっていた。
はっと気づいたときにはドアの閉まる音がして、思わず天井を仰いだ。