いくら時間が過ぎても消えないうわ言に、私は今日何度目かのため息を吐く。
小さく消えていく言葉は、けれど途切れずにまた生まれた。
対象の無い『だれか』への謝罪と、わけのわからない慟哭のような言葉だけが聞こえる。
シーツに包まって、くぐもって聞こえる音なのにソレを聞き逃すことは無かった。
聞き逃すのは、罪なのだと思った。
忘れろと、届かぬ言葉を囁いては頭をなでてやるのはもう習慣になりつつある。
ほんの少し力を入れたら壊れてしまうような、そんな曖昧で弱いもの。
夜毎繰り返して、だんだん腹の底に溜まっていくものを意識した。
カタカタと窓を揺らす風のように激しくはなく、かといって静かでもない。
ゆっくり、ゆっくりと、蓄積されていくのが分かる。
目を閉じて、そっと息を吐いた。
ため息の数より多く、私は後悔する。
なぜこんな風に、自分から近づいていってしまったのだろう。
何故彼を、愛しいと思ってしまったのだろう。
自問自答しながら、けれど今更やめられないことを知っていた。
大切に、愛しんであげたいと思う気持ちがいつのまにかここにある。
けれど臆病な自分は、夢の中ですら懺悔をやめない子供を揺り起こすことすら出来なかった。
ただ誰にも知れることの無い言葉をかけて、見ていることしかできない。
薄いガラスの膜のように、触れたらそれだけで壊れそうな弱さを知ってしまったのだ。
彼が、この思いが。
自分が?
とてもとても、弱いもの。
壊れてしまう、跡形も無く、塵ひとつ残さず、記憶に残らないくらいに、見事に、粉々になって、壊れてしまう。
壊れて、壊れて、壊れて、壊れて、壊れて、消えてしまうのだろう。
そう思ったら、急に怖くなった。
破壊なんてむしろ自分の好むものだった、昔からそれだけは得意だったから。
そうすることでしか生きていけないかのように、壊しつくした。
ああ、なんということだろう。
それが途方も無い罪だと、理解しても納得は出来なかったのに。
今になってようやく、ストンと胸に落ちてきた真実。
誰かを愛しいと思うことも、失うということの本当の意味も、ようやく知ったのだ。
怖い、ただそう思った。
考えれば考えるほど、怖くなっていく。
ごめんなさい
ゆるして
彼の唇がその言葉を紡ぐ度、自分の罪を思い出す。
無意識のうわ言は、私にしてみたら最悪の凶器だった。
その罪を被せたのは誰なのか、一度自身に尋ねてみたらいい。
冗談のように、たわむれのように、くだらないことを。
生まれ続ける戯言を、塞いだ。
呼吸を殺すように無理やり唇を重ねて、シーツをきつく握り締める彼の指に自分のそれを重ねる。
「あいしてます」
それが最悪の戯言と知りながら、殺された彼の戯言の代わりにと呟いた。