真っ黒に焦げた悪夢の姿



最後の炎が、燃えている。
猛く、風にあおられ、ただただ、熱く。
地獄の業火。
そんな言葉すら、この光景にはまだ足りない。
針鼠のように体中に矢の刺さった死体。
心の臓を突き刺され、むごたらしく血を吐いて伏している死体。
それを醜いとは思わない。
何よりも醜いのは、恐怖し、おびえて敵を眼前にしながら戦意を喪失した屑共だ。
ああ、本当に誰も分かっちゃいない。
情けなく祈りをささげたところで、いったいこの戦場で誰が守ってくれるのか。
黒光りする刃が、自らの腕のみが信じるものであるというのに。
弱者を強者が屠り、上に立つ。
ただそれだけのこと。
この炎を背に、最後の言葉を放つ。
たとえ死を目前にしようとも、けっして臆さない。
それが、無性に。

けれど、それももう仕舞いだ。

あついあついあついあついあついあついあついあつい。
なぜ、この赤い炎はこんなにもこの身を焼くのか。
ただ尚早の熱に駆られ、早まったあまりの激情だった。

「もうっ、何もかも遅すぎたんだよっ!」

血と汗にぬれて、死の匂いに包まれた体を地面にたたきつけた。
劣勢でもなお、幸村はあきらめない。
いつになったら、あきらめてくれるのか。
半ば途方にくれた。
早く終わらせたかった、すべてを。

「殺した、殺しつくした。魔王でさえも、この手で屠った。残っているのは、お前だけだ」

上にのしかかり、力の限り殴りつけた。
刀など、もはや必要ではない。

「たとえどちらが全てをを征しても、敗者も、勝者も、所詮ヒトゴロシだ。浄土になんて行けやしねぇよ。そこいらで転がりまわってるやつらも、死んでるやつらも同じ・・・皆、地獄の道行きだ」

晒されて、荒く息をつく喉元を今すぐ掻っ切ってやりたい。
手を触れると六文銭がじゃらじゃらと鳴る、不愉快だった。
そのまま力を込めて、締め上げる。

「ぐっ・・ぁ、あ、あ!」

ぶちん、あっけなくそれはちぎれて、血液と同じように地面に吸い込まれていった。
転がって、横たわる、死体と同じ。

「なぁ、幸村。魔王すら殺して、浄土にも、地獄にもいけない俺はどこでお前と会えばいいんだ?」

同じところになんて、いけやしないんだ。

「俺は、お前を・・・」

急速に鎮火していくものを、どう表したらいい。
夜に消されていく赤色を、どう迎えたらいい。


「っ・・・があああああああああああああ!!!!」


獣のような咆哮が悪夢のように押し寄せて、力任せに振り上げた拳は深く沈みこんだ。
無意識に手にしていたものが、そのときにつぶれたのが分かった。

もう、元の形には戻せないのだと、わかった。