呟かれた嘘は赤い疑惑を生む

 何気ない言葉に、何気なく含ませている意味のない嘘に気づいているのだろうか。
それを確かめる術があるはずもなく、地に横たわる肉塊にいくつも同じものを重ねながら走る。
散る赤に高揚しているのは自覚しているが、この場においてそうでないものはここでたってはいられない。
恐れたら負け、一瞬後には死が待つだけだ。
人体の油で滑り、切れ味の悪くなっている刀を敵の死体でぬぐった。
もともと赤い甲冑だ、血を流しても、ぬぐってもさして変わりはないだろう。
そこらじゅうで響く爆音、人の悲鳴、断末魔。
耳が、別の音を拾った。
瞬間、肩が跳ねてほんのわずかに腕が震えた。
たとえどれ程遠くとも、自分には分かる。
合間見え、この腕で、脚で、寸分の隙間もなくその時を満喫するためにこうして突き進んでいるのだ。
風向きが変わり、赤い煙がこちらへと流れてくる。
視界を奪われぬように手を眼前へ移動させ、かばう。
風がびゅうびゅうとなって、切れた。


「今日こそお前を殺すぜ、真田幸村」


今日も意味のない嘘を重ねる、幾度目だろうか。
数えたことはない。
なぜ。
疑問が生まれてもそれは赤く塗りつぶされる。


「真田源次郎幸村、いざ尋常に参る!」


今日こそ、と。
心の中でひそやかにつぶやいた嘘偽りのない望みは、ついに日の目を見ることがなかった。